数学が苦手な生徒のひとこと

私は今の勤務校で、高校1年生で数学の成績が芳しくない生徒たちを対象とした放課後補習を週1回担当しています。十数人の男女ですが、印象としては明るく、真面目な生徒たちです。補習授業では、私と会話も弾み、生徒の授業参加への積極性を感じています。丁寧に教えれば、問題もできるようになってきています。ある生徒は、数学の成績が悪いからと塾に行っている生徒もいます。なぜ、この生徒たちは、「できない」状態に陥ってしまっているのでしょう。何が足りないのでしょうか。

昨日の授業では複素数について復習しました。生徒たちは既に数学の授業で担当の先生に教えてもらったと言っていますが、問題を解いている最中に「複素数の実部・虚部って何ですか?」という質問が出ました。これは、複素数の基本的事項ですから、授業で教えていないはずはありません。この質問がでるということは、この生徒は授業中、先生が説明する事柄が「聞こえていない」ということになります。教員の発する言葉が生徒に伝わっていなければ、コミュニケーションは成立しておらず、授業は意味がない時間ということになります。

自分の授業で全ての生徒に内容が伝わっているのかというと、自信はありません。かなりの準備をして作った授業のあとの小テストでの確認も、半分以上の生徒に内容が伝わっていないということがあります。すぐ直前に説明したことがらを生徒から質問を受けることなどしばしばあります。担当クラスで赤点をとる生徒もいます。経験から言えば、授業で3分の2くらいの生徒に伝えられれば良しという感じでしょうか。裏返せば3分の1の生徒は1対多のこれまでのような集団授業ではカバーしきれないように思えます。

自分の高校生であったときのことを思い返せば、1日6時間の授業で、全ての授業を集中して聞くなどということはできていませんでした。いや、ほとんどの授業をしっかり聞いていなかったと言った方が正しいかもしれません。授業中には、部活のことや、異性のこと、授業に関係ないことばかり考えていたように思います。高校生に、1日6時間の授業中、教員の一言一句をもらさず聞き取れというのは土台無理な話です。でも、授業する側(教師の側)に身を置くと、自分が準備して作り上げた授業という意識が先に立ち、数学だけは他の科目とは別だ。自分が話した事柄は生徒が聞いて理解しているはずであり、そうであるべきという虚構の上で物事を進めてしまいがちです。カリキュラムが先に立って、教える内容が多すぎてスピードが求められることが理由かもしれません。これでは置いてけ堀の生徒が沢山でてきてしまいます。

昨日の補習で生徒のひとりは、「数学の先生は性格が悪い」と言い切りました。私は、「その先生がいないところで『性格が悪い』などという君の性格はどうかね?」と切り返しましたが、勤務している学校の生徒の間では数学の教師は大体において性格が悪いということで一致しているようです。そんな風に見られていては、授業でコミュニケーションが成立するはずもありません。極め付けに別の生徒は、「数学が無かったら、私の人生はもっと良いものになっていたのに」と言いました。この言葉には、「そうなんだ」と相槌を打つだけで、私は何も言えなくなりました。

数学が彼らの人生にとって意味のあるものになるには、どうすればよいのでしょう?

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